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東京地方裁判所 昭和45年(特わ)146号 判決 1985年3月04日

主文

被告人藤原慶久を懲役二年六月に、被告人青木忠を懲役三年に、被告人久保井拓三を懲役二年に、それぞれ処する。

この裁判確定の日から、

被告人藤原慶久及び被告人青木忠に対し、いずれも五年間、

被告人久保井拓三に対し、四年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、別紙訴訟費用負担一覧表記載のとおり、

被告人三人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

昭和四四年四月当時、被告人藤原慶久は、反帝国主義・反スターリン主義のプロレタリア世界革命を標榜する革命的共産主義者同盟(以下「革共同」という。)の影響下にあるベトナム戦争反対・日韓条約批准阻止のための青年委員会(以下「反戦青年委員会」という。)東京地区反戦連絡会議(以下「東京地区反戦」という。)の世話人として、被告人青木忠は、革共同の影響下にある全日本学生自治会総連合(委員長金山克巳、以下「中核派全学連」という。)の書記長(委員長代行)として、いずれも革共同の政治上の主義、施策を推進する政治活動を行つていたもの、被告人久保井拓三は、プロレタリア独裁による世界共産主義社会の実現を標榜する共産主義者同盟(以下「共産同」という。)の影響下にある社会主義学生同盟(以下「社学同」という。)の全国委員会常任委員、更にその影響下にある全日本学生自治会総連合(委員長藤本敏夫、以下「反帝全学連」という。)の副委員長として、共産同及び社学同の政治上の主義、施策を推進する政治活動を行つていたものであるが、いずれも同月二八日のいわゆる沖縄デーにおける「四・二八沖縄闘争」を実施するに当たり、

第一被告人久保井拓三は、共産同議長のさらぎ徳二こと右田昌人と共謀の上、プロレタリア独裁による世界共産主義社会の実現を目指し、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安全保障条約」という。)に反対し、日本帝国主義打倒を唱え、沖縄の米軍政打倒、基地撤去、自衛隊の沖縄派兵反対及び日米共同侵略反革命前線基地化反対を内容とする沖縄闘争を推進する政治上の目的の下に、多数の学生、労働者らをして、治安維持のため警備、規制、検挙活動等の職務の執行に従事する警察官に対し、角材、鉄パイプ、石塊等の凶器を携え、多衆共同して暴行、脅迫を加えることにより、政府の中枢機関が存在する霞が関地区を占拠するほか、首相官邸、アメリカ大使館、防衛庁等に突入し、その周辺一帯を大混乱に陥れるなどして、公務執行妨害及び騒擾の各罪を実行させることを意図した上、同月一五日午後六時三〇分ころから九時過ぎころまでの間、東京都千代田区九段南一丁目六番五号所在の九段会館において開催された「共産主義者同盟政治集会」(共産同主催)の席上、参集した約千人の学生、労働者らに対し、

右田昌人において、共産同議長として、「我々の敵は、アメリカ帝国主義であると同時に、日本帝国主義である。」「一昨年の一〇・八羽田闘争においては、中央大学などの戦闘的学友諸君により、ゲバ棒に石という戦術、武器の転換が行われ、今では、それが普遍化している。」「四・二八の闘争は、現在全国の学園、職場で各個に行われている闘争を、政府中枢の霞が関の一点に結集し、今までの闘争の一大総括として、一〇・八によつて切り開かれた戦術、武器の一大飛躍をさせるものとして、闘わなければならない。」「同志諸君は、身辺の整理を既に終わつていると思うが、まだ終わつていない同志は、早急に身辺の整理を行い、一大決意を固めて貰いたい。」「四・二八の闘争においては、政府中枢、首相官邸、アメリカ大使館、防衛庁に断固として突入し、これを占拠する闘争として闘わなければならない。」「諸君は一大決意を固めて貰いたい。」「我々の浮沈は、四・二八闘争いかんにかかつている。」などと演説し、

被告人久保井拓三において、反帝全学連代表として、「全学連から、四・二八に対する総決起を訴えたい。」「四・二八闘争は、我が全学連の一大決戦として、一〇・二一や一・一八、一・一九の闘争を上回る質と量を結集し、霞が関一帯を大混乱に陥れ、一大騒擾事態をつくり出し、一千名の武装部隊を組織し、数万人の労働者、学生をその回りに結集して、神田を出発点とし、首相官邸を頂点とする外務省、アメリカ大使館、防衛庁に対して怒濤の進撃を行わなければならない。」などと演説し、

もつて、その政治上の主義、施策を推進し、政府の施策に反対する政治上の目的の下に、警察官に対し凶器を携え多衆共同して行う公務執行妨害罪及び騒擾罪を実行させることを意図して、右両罪のせん動をした

第二被告人藤原慶久及び被告人青木忠は、革共同書記長の本多延嘉と共謀の上、反帝国主義・反スターリン主義のプロレタリア世界革命による共産主義社会の実現を目指し、日米安全保障条約に反対し、日本帝国主義打倒を唱え、沖縄の本土復帰、基地撤去及び永久核基地化反対を内容とする沖縄奪還闘争を推進する政治上の目的の下に、多数の学生、労働者らをして、治安維持のため警備、規制、検挙活動等の職務に従事する警察官に対し、角材、鉄パイプ、石塊等の凶器を携え、多衆共同して暴行、脅迫を加えることにより、政府の中枢機関が存在する霞が関地区を占拠するほか、首相官邸に突入し、その周辺一帯を大混乱に陥れるなどして、公務執行妨害及び騒擾の各罪を実行させることを意図した上、同月一七日午後六時過ぎころから九時三〇分ころまでの間、同都文京区春日一丁目一六番二一号所在の文京公会堂において開催された「七〇年安保勝利、新入生歓迎四・一七大政治集会」(革共同等主催、中核派全学連等協賛)の席上、参集した千数百人の学生らに対し、

被告人藤原慶久において、東京地区反戦世話人として、「四・二八には、反戦青年委員会は、六千名の闘う部隊を首都に繰り出し、全学連の部隊とともに、首都制圧、首相官邸占拠を勝ちとるであろう。」「我々は、一〇・二一新宿闘争で、機動隊を粉砕できるということを証明した。」「我々は敢えて内乱も辞さない。」「反戦青年委員会は、首都制圧、首相官邸占拠を目指して徹底的な闘いをすることを宣言する。」「四・二八には、諸君の総決起を促すものである。」などと演説し、

被告人青木忠において、中核派全学連書記長として、「四・二八首都制圧、首相官邸占拠は、断固勝ちとらなければならない。」「我々は、もはや機動隊を粉砕の対象としなければならない。機動隊の粉砕が、我々の闘いの初めである。機動隊を粉砕せずして、七〇年闘争は切り開かれないんだということを確認しなければならない。」「国家権力の暴力に対して暴力を行使することは正当である。我々の暴力に対しては制限がない。」「たとえ四・二八闘争に騒乱罪、破防法が適用されても、我々は絶対にひるんではならない。」「我々の闘いによつて、沖縄のゼネストを生み出そうではないか。」「一一月を待たずに、我々は、佐藤訪米を粉砕しなければならない。」「四・二八沖縄奪還闘争には、我々の手で首相官邸に必ず中核の旗を立て、官邸を占拠するということを宣言する。ともに闘おう。」などと演説し、

本多延嘉において、革共同書記長として、「四・二八沖縄奪還闘争は、日本の歴史を変える闘いにしなければならない。日本の歴史は、諸君の手でいくらでも変えることができる。」「我々の闘争は、権力を倒すか、それとも敵の権力に屈伏するか、二つの道から一つを選ぶしかない。」「現在、日本帝国主義は既に限界に来ている。」「革命の情勢は熟している。今ここで我々が闘えば、絶対に勝つことができる。」「歴史を見れば分かるように、権力を倒すのに国民投票をしてやつたなどということは、今まで一度もない。」「我々は、全国民を帝国主義から解放するために、徹底的に闘わなければならない。」「四・二八沖縄奪還闘争は、まさに我々の闘い、革命の出発点である。」「今後、我々は、労働者の工場占拠などを中心として、徹底的に権力側をたたき、我々の目的を達成しなければならない。」「四・二八闘争は、文字通り死を賭けた闘いになるであろう。我々は、日本を、また、世界を理想の社会にするために、我々が闘わずして誰が闘うのか。四・二八首都制圧、首相官邸占拠、沖縄奪還闘争には、我々は、徹底的に闘うために立ち上がらなければならない。」などと演説し、

もつて、その政治上の主義、施策を推進し、政府の施策に反対する政治上の目的の下に、警察官に対し凶器を携え多衆共同して行う公務執行妨害罪及び騒擾罪を実行させることを意図して、右両罪のせん動をした

第三被告人青木忠は、前記第二と同様の政治目的及び意図の下に、同月二〇日午後零時三〇分ころから二時三〇分ころまでの間、同都新宿区所在の明治公園において開催された「四・二〇沖縄闘争勝利、七〇年安保粉砕全国青年労働者総決起集会」(各県反戦青年委員会の実行委員会主催)の席上、参集した労働者、学生ら五千数百人に対し、中核派全学連書記長として、「本集会に結集されたすべての青年労働者、学生諸君、我々は、四月二八日の全都制圧、首相官邸占拠の闘いに、今こそ総決起しなければならない。」「我々は、七〇年闘争を闘うに当たつて、六九年の階級闘争に我々が勝利するか否か、そのことが、極めて重要な意味をもつていることをはつきり確認しようではないか。」「一一月の佐藤訪米を実力阻止するために、我々は、今こそ四月二八日、一切の労働者、学生、人民の力を総結集し、四月二八日の全都制圧、首相官邸占拠を徹底した実力闘争で実現します。七〇年闘争を賭けて闘い抜きます。」「四月二八日が決戦でなくして一一月が決戦であるとか、七〇年が決戦でなくして七〇年台が決戦であると言う敗北主義と日和見主義を、我々は徹底してたたき出さなければならない。」「すべての反戦青年委員会のすべての労働者諸君。我が全学連とともに、四月二八日実力闘争に決起しようではないか。」「四月二八日、弾圧を打ち破り、全都制圧、首相官邸を占拠する闘いを勝ちとろうではないか。」「我が全学連は、必ずや中核旗を先頭に闘うことを宣言する。」などと演説し、

もつて、その政治上の主義、施策を推進し、政府の施策に反対する政治上の目的の下に、警察官に対し凶器を携え多衆共同して行う公務執行妨害罪及び騒擾罪を実行させることを意図して、右両罪のせん動をした

第四被告人藤原慶久及び被告人青木忠は、共謀の上、前記第二と同様の政治目的及び意図の下に、同月二〇日午後四時一五分ころから五時四五分ころまでの間、同都千代田区所在の日比谷公園において開催された反戦青年委員会、中核派全学連等主催の解散集会の席上、約八百数十人の労働者、学生らに対し、

被告人青木忠において、中核派全学連書記長として、「四月二八日の闘争は、全国の労働者、農民の総力を結集して闘う。」「七〇年闘争はやつてくるものではない。」「四・二八闘争は、首都制圧、首相官邸を占拠する。」「すべての学生、反戦青年委員会の諸君。四・二八は、史上空前の闘争を闘い抜かねばならない。」「四・二八闘争において、労働者、学生の力で、我が全学連は、圧倒的な力を示す。」「反戦青年委員会の諸君。四・二八闘争は、労働者、学生がすべての力を余すところなく発揮すれば、首都制圧、首相官邸占拠はできると思います。」などと演説し、

被告人藤原慶久において、東京地区反戦世話人として、「四・二八闘争の成否は我々の双肩にかかつていることを、我々は、改めて確認しようではないか。」「反戦青年委員会は、既に突撃隊を準備して四・二八闘争に備えている。」「四・二八を語らず一一月佐藤訪米を語る者、四・二八を闘わず七〇年を語る者は、日和見主義者である。」「四・二八の闘争を街頭において先頭に立つて決死の闘争を展開すれば勝つだろう。」「首相制圧、首相官邸占拠を勝ちとろう。」「本日から残された一週間を全力を挙げて準備していこう。準備は誰がするのではなく、我々が準備するんだ。」「一〇・二一、東大闘争では、機動隊を突破して勝つた。四・二八でも闘い抜こう。」などと演説し、

もつて、その政治上の主義、施策を推進し、政府の施策に反対する政治上の目的の下に、警察官に対し凶器を携え多衆共同して行う公務執行妨害罪及び騒擾罪を実行させることを意図して、右両罪のせん動をした

第五被告人藤原慶久は、本多延嘉と共謀の上、前記第二と同様の政治目的及び意図の下に、同月二四日午後七時過ぎころから九時ころまでの間、同都江戸川区逆井二丁目二〇〇番地(現地番平井四丁目一番一号)所在の江戸川区立小松川区民館において開催された「四・二四安保粉砕、沖縄奪還反戦大集会」(同都東部各地区反戦青年委員会の実行委員会主催)の席上、参集した三百数十人の労働者、学生らに対し、

被告人藤原慶久において、東京地区反戦世話人として、「世論がどうあろうとも、我々は闘わなければならない。」「昨年の一〇・二一において見られるとおり、我々には多くの支持者がいる。」「我々が、四・二八闘争に完全武装し、全学連諸君と労働者、その他すべての市民とともに、一体となつて霞が関を攻撃し、首相官邸を占拠することは、当然のことなのである。なぜなら、二三年間沖縄人民にあの苦しみをなめさせた内閣に対する報復として闘うのであるから、沖縄人民の苦しみに比較すれば、官邸占拠では足りないくらいである。」「ここで私は諸君に呼び掛ける。すべての青年労働者は、四月二八日午後五時、新橋駅に総決起し、我々は、独自の行動で完全武装し、最前線の一端に位置し、霞が関に総攻撃をかけ、首相官邸を占拠しよう。」などと演説し、

本多延嘉において、革共同書記長として、「今や日米帝国主義は、完全に行き詰まつている。この機に乗じて、我々は、帝国主義者、支配階級に闘いを挑まなければならない。」「我々の階級闘争は、物が人を管理する現体制を根本から覆す闘いであり、再び人が物を管理する体制に戻さなければならない。」「この階級闘争の主役は、あくまでも労働者なのである。全国の労働者はこの闘争に全力を尽くさなければならない。」「階級闘争は常に行動で示すものであり、いかなる官憲の弾圧があろうとも、絶対に屈してはならない。そのため、我々は、あらゆる武器を使用し、あらゆる事情に乗じて、闘いを挑まなければならない。」「我々は、どんなことがあつても屈せず、この極東日本から侵略政治と警察政治を完全にたたき出すまで闘おう。」「現在、米帝国主義者と佐藤内閣は、極東と日本の平和のために、沖縄を犠牲にしている。」「ベトナム問題、偵察機撃墜と、帝国主義は、完全に行き詰まり、佐藤内閣も、安保条約に関して、混迷している状態である。我々は、この機を逃さず、敢然と闘いを挑まなければならない。政府の考え方が決まつてしまつた後の闘いでは意味がない。」「一九七〇年問題は、来年ではなく、四・二八闘争が出発点となるべきである。」「我々は、四・二八、そして六月のB五二撤去、一一月の佐藤首相渡米において、全員一丸となつて闘いを挑まなければならない。」「昔からどこの国の革命においても、革命闘争の前に国民投票にかけるという話を聞いたことはない。」「我々は、常に相手より先にこちらから闘いを挑んでいかなければならないのである。」などと演説し、

もつて、その政治上の主義、施策を推進し、政府の施策に反対する政治上の目的の下に、警察官に対し凶器を携え多衆共同して行う公務執行妨害罪及び騒擾罪を実行させることを意図して、右両罪のせん動をした

第六被告人久保井拓三は、多数の学生らと共謀の上、前記「四・二八沖縄闘争」のための集結場所とする目的で、同月二七日午後二時過ぎころ、学生ら多数とともに、同都文京区湯島一丁目所在の東京医科歯科大学(同大学学長大田敬三管理)の正門から同大学構内に侵入し、もつて、故なく他人の看守する建造物に侵入した

第七被告人青木忠は、

一  多数の学生らが首相官邸占拠、首都制圧等を企て、これを阻止する警察官らに対し、共同して投石、殴打するなどの目的をもつて、同月二八日午後五時ころから五時三〇分ころまでの間、同都千代田区丸の内一丁目所在の国鉄東京駅第三ホーム(5、6番線)上に、多数の鉄パイプ、角材、石塊等を携えて集結した際、角材を所持して右集団に加わり、もつて、凶器を準備して集合した

二  前記のとおり東京駅第三ホーム上に集結した多数の学生らと共謀の上、同日午後五時三〇分過ぎころ、同ホームから線路上に大挙して立ち入り、多数の鉄パイプ、角材等を携行し、「安保粉砕」「沖縄奪還」などと叫んで気勢を上げながら、山手線、京浜東北線、東海道線の線路上を、有楽町駅を経て同都同区新橋二丁目所在の国鉄新橋駅に至り、同駅ホーム付近に集合していた多数の学生らとともに、同日午後六時過ぎころまで同駅ホーム及び付近線路上に滞留し、国鉄東京南鉄道管理局指令係長橋本勝ら運転関係職員をして、そのまま電車等を運行させれば事故の発生を免れないものとの念を抱かしめ、同日午後五時三〇分過ぎころから一時間余にわたり前記各駅を発着すべき電車及び列車の運行を停止させ、もつて、威力を用いて日本国有鉄道の輸送業務を妨害した

ものである。

(証拠の標目)<省略>

(確定裁判)

一被告人青木忠は、

1  昭和四四年三月二五日東京地方裁判所八王子支部において昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例違反の罪により懲役二月、二年間執行猶予に処せられ、同裁判は昭和四四年七月二九日確定し、

2  昭和四八年六月二八日東京高等裁判所において住居侵入罪により懲役七月、三年間執行猶予に処せられ、同裁判は同年七月一三日確定し、

3  同年六月一五日東京高等裁判所において公務執行妨害罪、傷害罪により懲役一年、三年間執行猶予に処せられ、同裁判は同年七月一七日確定した

二被告人久保井拓三は、

1  昭和四四年一一月一四日東京地方裁判所において昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例違反の罪により懲役五月、二年間執行猶予に処せられ、同裁判は昭和四四年一一月二九日確定し、

2  昭和五二年六月三〇日東京高等裁判所において凶器準備集合罪、公務執行妨害罪により懲役二年に処せられ、同裁判は同年七月一五日確定したものであつて、右の各事実は右被告人両名に関する検察事務官作成の各前科調書並びに各判決書謄本(右の各前科に関するもの)によりこれを認める。

(法令の適用)

被告人久保井拓三の判示第一、被告人藤原慶久及び被告人青木忠の判示第二及び第四並びに被告人藤原慶久の判示第五の各所為中、各公務執行妨害せん動の点は、いずれも刑法六〇条、破壊活動防止法四〇条三号、刑法九五条に、各騒擾せん動の点は、いずれも同法六〇条、破壊活動防止法四〇条一号、刑法一〇六条に、被告人青木忠の判示第三の所為中、公務執行妨害せん動の点は、破壊活動防止法四〇条三号、刑法九五条に、騒擾せん動の点は、破壊活動防止法四〇条一号、刑法一〇六条に、被告人久保井拓三の判示第六の所為は、行為時においては同法六〇条、一三〇条前段、昭和四七年法律第六一号による改正前の罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては刑法六〇条、一三〇条前段、右改正後の罰金等臨時措置法三条一項一号に、被告人青木忠の判示第七の一の所為は、行為時においては刑法二〇八条の二第一項、右改正前の罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては刑法二〇八条の二第一項、右改正後の罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第七の二の所為は、行為時においては刑法六〇条、二三四条、二三三条、右改正前の罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては刑法六〇条、二三四条、二三三条、右改正後の罰金等臨時措置法三条一項一号に、それぞれ該当するところ、判示第六並びに第七の一及び二の各罪はいずれも犯罪後の法令により刑の変更があつたときに当たるから刑法六条、一〇条によりそれぞれ軽い行為時法の刑によることとし、判示第一ないし第五の各公務執行妨害せん動の罪と各騒擾せん動の罪とは、いずれも一個の行為による場合であるから、それぞれ刑法五四条一項前段、一〇条により、いずれも犯情の重い各騒擾せん動の罪の刑で処断することとし、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告人藤原慶久について判示の各罪は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内、被告人青木忠及び被告人久保井拓三についてそれぞれ判示の各罪と前記確定裁判のあつた各罪とはいずれも同法四五条後段により併合罪の関係にあるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示の各罪について更に処断することとし、なお右の各罪もまた同法四五条前段により併合罪の関係にあるから、同法四七条本文、一〇条により被告人青木忠について刑及び犯情の最も重い判示第二の罪の刑、被告人久保井拓三について犯情の重い判示第一の罪の刑にそれぞれ法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人藤原慶久を懲役二年六月、被告人青木忠を懲役三年、被告人久保井拓三を懲役二年にそれぞれ処し、被告人三人に対し、いずれも情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から、被告人藤原慶久及び被告人青木忠につきいずれも五年間、被告人久保井拓三につき四年間、それぞれその刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条を適用して、別紙訴訟費用負担一覧表記載のとおり、被告人三人に単独又は連帯して負担させることとする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、第一に、破壊活動防止法が共産主義活動及び共産主義組織に対する規制を目的とする反共予防立法であり、殊に同法所定の教唆及びせん動が、行為ではなく思想の表現にとどまるものを処罰の対象とするものであるから、憲法一九条の思想の自由及び同法二一条の表現の自由を侵害する旨主張する。

そこで、昭和二七年破壊活動防止法が制定されるに至つた経緯をみると、当時の我が国における共産主義者の武力革命活動を防止することが、同法を制定する必要性を高めた原因となつていたことは否定できないところであるが、同法は、特に右共産主義者の武力革命活動のみを対象として制定されたものではなく、左翼、右翼いずれの活動であるかを問わず、あくまで議会制民主主義体制に対する暴力主義的な破壊活動を対象として制定されたものであつて、このような破壊活動と無関係の共産主義活動及び共産主義組織を規制するものでないことが明らかであるとともに、同法において処罰の対象とされている教唆及びせん動は、思想の表現にとどまるものではなく、あくまで行為としての教唆及びせん動であつて、思想自体を処罰しようとするものでないこともまた明らかであるから、弁護人の右主張は採用することができない。

弁護人は、第二に、破壊活動防止法四〇条におけるせん動罪の規定が、同法四条二項の定義規定を併せ考慮するとしても、なお不明確な規定であるから、憲法三一条に違反する旨主張する。

しかしながら、破壊活動防止法四〇条におけるせん動罪の規定は、いわゆる政治上の目的をもつて行う騒擾罪等のせん動を処罰しようとするものであり、議会制民主主義体制に対する暴力主義的な破壊活動を規制する同法の立法趣旨に照らして、行為者の政治上の目的という主観的意図を構成要件要素(目的犯)として規定することについて合理的な理由があるとともに、右の目的をもつて騒擾罪等を実行させる意図で言動等により人に対しそれを実行する決意を生ぜしめ又は既に生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えること(せん動)を処罰しようとすることについても十分な理由があり、更に、その構成要件を解釈するに当たり一般人の判断能力をもつて十分理解することが可能であるとみられるのであつて、同規定は、犯罪構成要件としての明確性を有しているものと解されるから(最決昭和四五年七月二日刑集二四巻七号四一二頁、最(大法廷)判昭和五〇年九月一〇日刑集二九巻八号四八九頁等参照)、弁護人の右主張は採用することができない。

弁護人は、第三に、破壊活動防止法四〇条のせん動罪が内乱罪を間接的、予防的に規制する役割を果たしているから、右せん動罪における「政治上の目的」は「内乱目的」を意味し、本件において同罪が成立するためには、せん動に当たるとされる演説中に「内乱目的」があり、しかも内乱実行の現実的可能性の存在が必要であると解すべきところ、本件においては、これらが存在しないから、同罪の成立する余地はない旨主張する。

しかしながら、破壊活動防止法四〇条のせん動罪における「政治上の目的」は、同法三九条の場合と同様に、「政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対する目的」をいうのであり、同法三八条における「朝憲紊乱の目的」をもつて行う内乱罪のせん動罪の場合とは、おのずから異なるのであつて、両者を同視することができないことは構成要件上明らかであるから、その余の点を検討するまでもなく、弁護人の右主張は採用することができない。

弁護人は、第四に、破壊活動防止法四〇条のせん動罪が具体的危険犯であり、同罪が成立するためには、同法の保護法益である公共の安全に具体的な危険が生じたことを要すると解すべきところ、本件においてはこれが生じていないから、同罪が成立しない旨主張する。

ところで、法益侵害の結果の発生を必要とせずに、その危険の発生のみで足りるとされるいわゆる危険犯において、これを更に抽象的危険犯と具体的危険犯とに分ける点は、構成要件上法益侵害の現実的な危険の発生が必要とされているかどうかにあると解するのが相当であつて、右せん動罪は構成要件上これを必要としていないことが明らかであるから、同罪は具体的危険犯ではなく、抽象的危険犯として解されるものであるとともに、本件においては、前記認定のとおり、破壊活動防止法の保護法益である公共の安全を侵害する危険が一般的に存在していたことを十分認めることができるから、弁護人の右主張は採用することができない。

弁護人は、第五に、本件の各演説が破壊活動防止法四〇条のせん動罪を構成するかどうかを判断するに当たつては、本件の各演説自体について、それが人に対し特定の行為を実行する決意を生ぜしめ又は既に生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を有するかどうかを検討すべきであつて、各演説のほか、各演説者の身分、聴衆との関係等を考慮することは、特定の政治的組織自体を処罰することにもなるから、憲法一九条、二一条に違反する旨主張する。

しかしながら、本件の各演説が右罪を構成するかどうかを判断するに当たつては、もとより本件の各演説の内容だけではなく、当該演説をした被告人の経歴、当該被告人が所属する団体の政治目的、闘争方針等、当該所属団体における被告人の地位、当該演説が行われた集会の目的、主催者等、当該集会における聴衆の総数、構成、反応等を総合して判断するのが相当であつて、これらの諸点を考慮することが特定の政治的組織を処罰することになるものでないことは明らかであるから、弁護人の右主張は採用することができない。

弁護人は、第六に、本件各演説中には四・二八闘争における具体的な行為の内容、態様等について指針を与えるものがなく、また、本件各演説中の「首都制圧」「首相官邸占拠」等の発言部分は、当時の沖縄返還政策等の不当性を指摘するとともに、それに対する闘うべき方向性を示したいわゆる政治的スローガンであり、単なる思想を表明したに過ぎないものであつて、いずれも聴衆に対し特定の行為を実行する決意を生ぜしめたり又は既に生じている決意を助長させたりするものではなく、したがつて、本件各演説は特定の犯罪行為に対するせん動としての具体性を有しないから、破壊活動防止法四〇条のせん動罪を構成するものではない旨主張する。

ところで、本件各演説がされた昭和四四年四月当時における本件被告人らの所属した各団体が実行した具体的な闘争の状況についてみると、昭和四二年一〇月の第一次羽田事件、同年一一月の第二次羽田事件、昭和四三年一月の米原子力空母エンタープライズ寄港阻止闘争事件、同年二、三月の成田三里塚事件、同年三、四月の王子野戦病院事件、同年一〇月の新宿騒擾事件、防衛庁襲撃事件等を通じて明らかなとおり、昭和四五年(一九七〇年)の日米安全保障条約改定期に向けての段階的阻止闘争を展開するとともに闘争態勢を一層強化し、その攻撃態勢について突撃隊、ゲリラ隊等の部隊編成をすることにより組織化し、その武器について旗竿、角材等に加えて鉄パイプ、石塊、劇薬等を使用することにより危険性を増大させ、そして街頭において警備、規制等の任務に従事する警察官らに対し大規模な集団武装闘争を展開し、激化させて、群衆、地域住民等を巻き込み、社会的混乱を生ぜしめており、また、このような闘争状況が、昭和四四年一月の東大事件を始め全国の大学紛争に重大な影響を及ぼしていたことも明らかである。そこで、このような右の各団体の闘争状況下にあつて、判示冒頭において認定したとおり、その所属団体においてそれぞれ重要な地位を占める本件各被告人が、判示第一ないし第五の各事実において認定したとおり、それぞれの目的、主催者等により開催された集会において、それぞれの総数、構成等から成る聴衆に対して行つた判示認定内容の各演説は、いずれも、その政治上の主義、施策を推進し、政府の施策に反対する政治上の目的の下に、警察官に対し凶器を携え多衆共同して行う公務執行妨害罪及び騒擾罪を実行させることを意図したせん動に当たるものといわざるを得ず、特定の犯罪行為に対するせん動としての具体性に欠けるものでないことが明らかであるから、弁護人の右主張は採用することができない。

よつて、主文のとおり判決する。

(中山善房 平谷正弘 中谷雄二郎)

訴訟費用負担一覧表<省略>

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